第11章 難はいつもすぐ傍で寄り添う
凪
(彼女のお陰で大事な思い出が鮮明になりましたね)
結莉乃
「あ、胤晴さーん!」
そんな事をぼーっと考えていた凪だったが結莉乃の声に、はっとして意識を戻すと結莉乃が柵の向こうに居る胤晴に手を振っていた。
胤晴は手を振り返すのも忘れ、結莉乃が雪に乗っている事に驚き目を丸くしていた。その様子に結莉乃は眉を下げて凪を見る
結莉乃
「も、もしかして怒ってますかね?…私が風月さんの雪に勝手に乗ってしまって」
凪
「いや、それは無いでしょう。…あれは─」
凪
(驚き、寂しさ、喜び…色んな感情が混ざった表情ですが“感動”でしょうね)
結莉乃
「あれは?…あれはの後に続くのは何ですか?」
凪
「内緒です」
胸の内だけで呟いた凪は、不安げに問い掛ける結莉乃に教えず胤晴がいる柵の近くまで行ってしまう。
結莉乃
「何で教えてくれないんですかー!」
まだ歩く事しか出来ない結莉乃はゆっくりと歩きながら抗議の声を大きくした。夏が終わりに近付き覗き始めた秋の空に彼等の楽しげな声が溶けていった─…
結莉乃
「じゃあ雪!また後でね。…凪さんもまた後で!」
凪
「ええ。気を付けて下さいね」
結莉乃は鍛錬に加え乗馬訓練も追加し三日が経った。怖がりながら乗っていたが今では少し走れる様になっていた。結莉乃は乗馬訓練を終えて町に用があった為、雪と凪に声を掛け厩舎を後にした
結莉乃
(やっぱりまだ若葉さんにやって貰った方が綺麗だなぁ…)
今日、外に出てくる時に自分で着付けをしたが少し乱れてしまい結局は若葉にやってもらったのを思い出す。
結莉乃が唯一やろうと懸命に着付けを頑張ろうと思わないのは若葉の雰囲気にあるのかもしれない。四つ歳が離れた姉に似ている事から結莉乃はつい若葉に甘えたくなってしまうのだろうと苦笑する