第11章 難はいつもすぐ傍で寄り添う
結莉乃
「…私は誰かを長く待ち続けた事は無いけど…それってきっと思ってるよりも辛いよね」
眉を下げて真っ白な馬を見詰めると、彼女も結莉乃を見ているようだった
結莉乃
「私は元々、此処の住民じゃ無かったの。知らない土地で不安もあったけど…前に進んでみたら不安なんて無くなったの。…貴女も少しずつで良いから私と進んでみない?」
結莉乃は優しく声を掛けながら手を伸ばす
凪
「触らない方が─……っ」
凪は自身が見ている光景に目を丸くした。結莉乃が伸ばした手に合わせて馬が頭を下げて触れさせたのだった
それはまるで結莉乃に背中を押されて彼女が一歩前に進んだ証拠でもあった
結莉乃
「ありがとう、触らせてくれて。…凪さん、私この子が良いです」
凪
「分かりました。…彼女は雪と言います」
結莉乃
「風月さんがつけたんですか?」
凪
「ええ。雪みたいだから、と」
結莉乃
「ふふ…貴女にぴったりの名前だね。可愛い」
雪のように真っ白な馬を見ながら結莉乃は楽しそうに笑うのに合わせて、雪も嬉しそうに結莉乃の掌に鼻を押し付けていた
凪
「…風月様が帰って来なくなってから彼女は誰にも触れさせなかったのです」
結莉乃
「え?」
凪
「心を閉ざし…風月様だけを待っていて、風月様以外が触れるのを拒みました。そんな彼女がこんなに嬉しそうにしているのは久し振りに見ました…結莉乃は凄いですね」
結莉乃
「凪さんに褒められるなんて貴重ですね!」
凪
「こら、茶化すのはよしなさい」
結莉乃
「ふふ…すみません。ありがとうございます、凪さん」
凪
「いえ。…では、移動しましょうか」
結莉乃
「はい!」
雪に乗馬用の装備をして、馬場へと移動した。
結莉乃
「凪さんの馬の毛色、珍しいですね!」
凪
「薄墨毛と言います。文字通り墨を薄くしたような色なんです」
結莉乃
「綺麗ですね」
身体全体は薄墨の様な毛をしているが脚は黒く、とても凛とした姿は凪にぴったりだと結莉乃は感じた