第11章 難はいつもすぐ傍で寄り添う
袴の方がやりやすいという事で結莉乃は一度、自室へ戻り若葉に撫子色の着物に千歳緑色の袴を着せてもらった。厩舎に慌てて向かうと藍錆色の着物に二藍色の袴を身に纏った凪が既に待っていた
結莉乃
「お待たせしました!」
凪
「いえ、そんなに待っていませんよ。…まずは貴女と相性が良い馬を選びましょうか」
結莉乃
「はいっ」
厩舎に入ると沢山の馬がおり結莉乃は一頭ずつに視線をやるが、ある一頭で目が留まる
結莉乃
「あの子…」
凪
「王の馬です」
結莉乃
「やっぱり!黒が綺麗で瞳が優しかったので覚えています」
結莉乃の言葉に凪は目を細める。
凪
「彼の毛色は青毛というのです」
結莉乃
「え、真っ黒なのにですか?」
凪
「ええ。黒は光すら吸収する色…ですが彼等のような馬の場合、黒すぎて艶があるので黒ではなく、青と呼ぶのです」
結莉乃
「へぇ…!」
知らなかった馬の事を聞けて結莉乃は楽しそうに目を輝かせる。厩舎に居る馬は皆、綺麗な毛並みをしていてとても大切にされているのが分かる
結莉乃
「綺麗…」
一頭の真っ白な馬が結莉乃の目に入った
結莉乃
(絵本に出てくる白馬って…こんな感じなのかな?)
何て思いながら真っ白な馬を見詰める。真っ白で綺麗だからという理由以外にも結莉乃は、馬の瞳が悲し気だったという事で目が留まった。
馬を間近で見る経験なんて今まで無かった結莉乃は一度に沢山の馬が見られた事に喜びを感じていた。
凪
「その馬は白毛と言うんです。…ですが、彼女は辞めた方が良いですよ」
結莉乃
「え、どうしてですか?」
真っ白な馬から視線を逸らさない結莉乃に凪が説明と共に付け加えた言葉に首を傾げる
凪
「風月様を今も待っているからです」
結莉乃
「風月さんを…」
問われたそれに凪は馬から視線を逸らさずに答える。告げられた言葉に結莉乃は驚き再び馬へ視線を戻し、彼女の悲しい瞳の理由が分かった