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「鬼の花嫁」世界に迷い込む

第10章 帰ってきたと思える場所




急須に湯呑みと小皿が二つ乗ったお盆を持って結莉乃は、胤晴が居る自室へと戻る


結莉乃
「お待たせしました!」

胤晴
「ありがとう」

結莉乃
「いえいえ。…あ!座布団出すの忘れてました、すみません!」


結莉乃は自分が向かっていた机とは別の机にお盆を置くと、押し入れから慌てて座布団を取り出す。畳に座っていた胤晴はお礼を述べて座布団に移動する


結莉乃
(凪さんにバレたら怒られる…)


何て思いつつ急須のお茶を湯呑みへ注ぎ、胤晴に渡された紙袋から羊羹を取り出す。高そうな和紙に包まれた羊羹の包装を結莉乃は丁寧に開けていく


結莉乃
「わ、美味しそう…!」

胤晴
「君の口に合えば良いが…」

結莉乃
「ふふ…買ってきて下さりありがとうございます」


結莉乃は竹で出来た小皿に切り分けられている羊羹を乗せて胤晴に渡し、自身の手にも持つ


結莉乃
「頂きます。……んっ、美味しい…!」


程よい餡子の甘味が咥内に広がり結莉乃は目を輝かせた。そんな姿を見て胤晴は安堵し、自身も挨拶を済ませて一口含む


胤晴
「……うん」

結莉乃
「美味しいですよね?」

胤晴
「嗚呼」


二人で顔を見合わせて笑みを浮かべる。ゆったりとした空気が二人の間に流れる。ふと、胤晴の視線が結莉乃が描いていた絵に止まる


胤晴
「絵を描いていたのか?」

結莉乃
「はい。凪さんに絵の具を分けて頂いたんです」

胤晴
「…桜の木か」

結莉乃
「え、分かりました!?」

胤晴
「嗚呼。良く描けている。…この鳥は」

結莉乃
「さっきまで止まってたので描いてみたんです」


自分が何を描いたのかが分かってもらえて嬉しい結莉乃が笑んでいると、胤晴は絵から視線を外すと結莉乃を見て


胤晴
「乾いたらその絵。貰っても構わないか?」

結莉乃
「え、これをですか?」

胤晴
「嗚呼」

結莉乃
「こんな試しに描いたような絵で大丈夫ですか?」


欲しいと言われると思っていなかった結莉乃が、戸惑いつつも問い掛けると胤晴は頷いた



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