第10章 帰ってきたと思える場所
─翌朝…
杠から帰ってきた結莉乃に普段通りの日常が戻っていた。いつもの様に眞秀と台所に立ち葱を切っている、短い時間だったのに内容が濃かったからか壬生が結莉乃には懐かしく感じた
眞秀
「やっぱりこの感じがないとな」
結莉乃
「何それ」
眞秀のしみじみとした言い方に結莉乃は思わず笑ってしまう。推しと台所に立つ事も会話をする事も結莉乃は大分、慣れた
結莉乃
「よし。…後は魚焼いたら終わり?」
眞秀
「嗚呼。俺がやるから良いぞ」
結莉乃
「そう?」
眞秀が頷くのを見れば結莉乃は先に広間に行く事にした。この日の朝餉を全員が喜んでいた。結莉乃も皆が美味しいと言ってくれる事が改めて嬉しかった。
朝餉を終えた結莉乃は郵便物を確認する
結莉乃
「私宛のやつもある…手紙?」
自分宛の手紙があるのは珍しい為、結莉乃は少し驚いたがひとまず懐にしまう。他の郵便物もあり届けに行く事を優先した
結莉乃
「凪さーん!」
凪
「何です。騒々しい」
凪宛の物を届けに来ると彼は襖を開けた状態で机に向かっており、結莉乃の登場に顔を上げる。だが、結莉乃の視界には別の物が入っていて瞳を輝かせている
結莉乃
「わぁ!凄い!これ凪さんが描いたんですか!?」
凪
「はぁ…少しは声量を抑えなさい」
結莉乃
「で、でも!凄く綺麗だったから!」
凪
「…それはそれは、どうもありがとうございます」
興奮気味に伝える結莉乃の視線は、庭にある石造りの池と木が描かれている紙の上から動かなかった。凪は屋敷に戻ってきた元気な声に騒々しさを感じたものの、内心では笑んでいた
結莉乃
「凪さん絵を描くのが好きなんですか?」
凪
「好きというか…考え事の息抜きに描いているだけです」
結莉乃
「へぇ…凪さんの絵、上手だけじゃなくて優しくて暖かいですね!」
凪
「優しくて暖かい…ですか?」
そんな事を言われたのは初めてで凪は不思議そうに首を傾げる。だが勿論、嫌な気分にはならないその言葉を凪は受け取っておく事にした