第2章 騙されやすすぎる審神者
主の懸命な手入れのおかげで、傷は瞬く間に癒えていった。
額に玉の汗を浮かべて、主はふぅと息をつく。それから不安げな面持ちで、俺の顔色を窺ってきた。
「傷はこれで治ったはずだけど、どう? 痛いところない?」
「あ、あぁ、どこも痛くないさ。ありがとうな」
「修行から戻って間もなかったのに、酷い怪我させてしまって本当にごめんなさい……」
「あぁいや、そのな――」
どんだけ歯切れが悪いんだ、と自分で自分にツッコミたくなる。
しかし、話し始めてもしどろもどろになる気しかしなかった。
とはいえこの泣きそうな主の誤解を解くために、それと、主を泣かせた罪状で方々から裁きを受けないために、可及的速やかに弁解することが必要だった。
俺はもう策を弄することなく、というか何も思いつかなかったので、シンプルに謝罪することにした。
「冗談なんだ! ああいう驚かせ方はよくなかったよな、すまん」
神妙な面持ちで一息に言う。
ハの字になっていた彼女の眉が、キョトンとしたカーブを描いた。
虚をつかれた表情で、うわ言のように名を呼ぶ。
「鶴丸……」
その眉が、より深刻なハの字に歪んだ。
「そんなこと言わせてしまってごめんっっ!」
「えっ」
「無理してごまかさないで! 痛いとかつらいとか鶴丸に我慢してほしくない!」
「ちがーー」
「しかもその傷私のせいだし、そんな気遣われ方いやだよ!」
怒涛の勢いでまくしたてる主。
どうやら主は、俺が主を気遣って、痛がったのをごまかすために、『驚かせようとした』ていをとっている――
そんなふうに思っているらしい。
そんな殊勝なこと、この俺がするわけないだろ!?