第2章 騙されやすすぎる審神者
「痛っ、傷が……ッ!」
「……っっ!」
大成功。
主の顔は、おもしろいくらい真っ青になった。
出陣から戻ったばかりの本丸にて。
重傷で今にもくずおれそうな風に呻いたら、この通りである。
実際は中傷だし、倒れそうなほどのダメージを負っているわけでも、呻くほど痛いわけでもない。
驚かせようと思い、ちょっと趣向を変えてみたのだ。
安定にも、主は驚いてくれた。
驚いてくれたというか、完全に騙されている。
俺がおふざけなしで、大真面目に痛がるほどの深手を負ったと勘違いしたようだ。
瞳を恐怖に見開き、思考停止してしまったのか固まっている。
そんなリアクションに、大事にされているのだなぁと改めて感じて、なんだか嬉しくてくすぐったい。
と同時に怖がらせ、泣かせそうになってしまって、罪悪感も湧き上がってくる。
さすがにこの素直で優しい主にはやりすぎたか。すまん冗談だ、と言おうとして、
「ごめん鶴丸っ! すぐ手入れするから!!」
鬼気迫る勢いで、主が叫んだ。
「えっ」
すぐさま式神がやってくる。
ひらひらしたヒトガタの紙たちは、俺をひょいと担ぎ上げた。
「うわわっ!?」
手のひらサイズの式紙たちによって、そのまま超低空飛行で手入れ部屋へと運ばれる。
主はその先頭に立って、手入れ部屋へと駆けていった。
何事かと男士たちが廊下に顔を出す。
主の謎に気迫ある顔と、式神に運ばれているおかげで床に寝っ転がりながらそれなりのスピードで移動しているように見える珍妙な俺の姿に、皆「は?」という表情をした。
光忠に至ってはもう完全に「この人また変なことやらかしたよ……」と呆れの入ったカオだ。
違う、いや違わなくもないんだが、違うんだ。
ちょ、ちょっと待ってくれ、と彼ら(?)を制止しようにも、主も式神もあっという間に手入れ部屋に到着してしまった。
スパーン! とふすまが引かれたと思えば、光の速さで手入れが始まる。
「あ、あの……あるじ……」
おずおずと話しかけてみるが、真剣に祝詞を唱え始めた主には当然聞こえていない。
ますます罪悪感と焦りがつのっていく。
いや手入れが必要なことに変わりはないんだけどな?