第2章 騙されやすすぎる審神者
「鶴さん……だめだよ……」
近くで聞き耳を立てていたらしい。
いつの間にか現れた光忠は、わざとらしく悲愴な表情を作っては、これまた沈痛な声色で続ける。
「そんなの、主が余計に悲しむよ!」
ドン! と効果音が鳴りそうな勢いで、光忠が言った。
白々しいにもほどがある。
光忠は、主が勘違いしていることをわかった上で、なおをそれに乗っかっていた。
その方が俺にタメージを与えられると考えたのだろう。
主を悲しませるおふざけは許さない、そんな保護者的な立ち位置からか。
光忠の目がすっと細まりジト目になった。
表情が主の視界に入らない角度に首を動かした上で、である。
だめでしょ鶴さん、と脳内に直接声が響いてきた気がした。
「ぬしさまのために、なんとけなげな……」
「お主……もしや、今まで……」
「ちっがーーーーぁう!!」
廊下からぼそぼそ聞こえてきた声に反射的に叫び返しながらスパーン! と来たときと同じくふすまを開ける。
戸の向こうには、絶賛感動中とばかりに全身を震わせている小狐丸と三日月がいた。
袖から少しだけ出した指の先を口元に添えて、心なしか目をうるうるとさせている。
なぜこんなに腹立たしく見えるのか。
「無理をしていたのだね……」
「主は喜ばんと思うぞ」
「あるじさまのためにどうけをえんじていたんですね」
「ちがうって言ってるだろ! やめろ!!」
石切丸、岩融、今剣も合わさった三条派の畳み掛けをまともに受けてしまう。
なんという深手。
特に今剣よ。というかいつの間に来たんだよこいつら。
このまま謎のキャラ付けがされてしまったらたまったものではない。
これから驚かせるたび、同情と憐憫で「アハハ、びっくりしましたよ」などとリアクションされたら死にかねない。
驚きはただ“驚き”であって、気遣いとか励ましの付属物や媒介ではない。
ましてや健気な人格から生じるアクションでもない。
「主を悲しませまいと、気丈にも道化を演じる鶴丸」
などという架空の存在は早急に修正しなければならない――
っていうか道化という言い方本当にやめて!
と声に出ていたらしく、今剣が慰めるように「むりしなくてだいじょうぶですよ」と返してきた。
本当にやめて。