第4章 短刀推しがすぎる一期一振 ㏌ 短刀しかいない本丸①
「自分でもわからんのです……ただ……」
「ただ……?」
「……受け止め切れないのです……ウッ」
なおも涙の滝を作る一期一振。堪えきれなくなったように呻き声をひとつ漏らす。
どうにもおかしい。悲しんでいるのとはちょっと違うのか?
私の目からは、“短刀たちの尊さを前にして溢れ出す感情を受け止め切れず、ただ泣くことしかできなくなった限界のオタク”、の姿に見えつつあった。
なぜならそれが私だからである。
とは言え、心の傷を癒している真っ最中の一期に、そんな失礼なことを思ってしまうなんて許されないことだ。
許されないことなのだがーー
「……泣いてるの……?」
半分夢うつつな声が、静かに響いた。
一期の膝ですやすや眠っていた、信濃だった。
いつの間に起きたらしい。
彼は寝ぼけ眼で、悲しそうに眉をハの字にしている。
「いち兄、どうしたの……?」
そう問う信濃の声は、迷子の幼子に呼びかけるようで、どこまでも優しさに満ちていた。
彼は手を伸ばし、一期の頬に触れるか触れないかくらいの繊細さで、その輪郭に指を伝わせる。
指が顎を滑りおちると、今度は両手を伸ばし、体をゆっくりと起こしていった。
そしてそのまま、ふわりと一期を抱きしめる。
「……いち兄」
聞いていて安心するような、あたたかい声だった。
信濃のこんな声は、初めて聞いた。
だからか、信濃が兄で、泣く弟(一期)を慰めているようにも見えた。
一期はその眉をさらにハの字に歪め、瞳をぎゅうと瞑った。
目の端から大粒の涙が零れ落ちていく。
それから一期は、恐る恐るといった手つきで信濃を抱きしめ返した。
数秒ののち、その腕に力が込められる。
一期はそうやって、しばらく信濃を確かめるように抱きしめていた。