第4章 短刀推しがすぎる一期一振 ㏌ 短刀しかいない本丸①
重ねて言うが、普段の前田は春のうららかさを纏うように柔和で、その真面目さには角がない。
むしろ平野の方が全然厳しい。
例えば私がダイエット開始を宣言したとき。
みんなに「私が間食しようとしたら止めてね!!」とお願いし回った。
そんな私が、愚かにもお菓子に手を伸ばしそうになったとき、
「ご自分で決められたではないですか! 間食はしないと!」
と平野は叱ってくれたが、前田は
「まぁまぁ、少しならいいではありませんか」
と甘い笑顔で許してくれちゃったのだ。
例えとして適切かわからなくなってきたが、とにかく、前田は平常時、小春日和の空気感を漂わせている。
それがあんなに凛々しく、厳冬を思わせる決意に満ちたーーとまた語りが始まりそうになったそのとき、
「……いっ一期、さん!?」
自分の口から悲鳴が上がる。
慌てて口をおさえた。よし。
信濃は「んむ……」と下唇を上げてへの字口を3秒しただけで、またくうくう眠り始めた。セーッフ!
「ど、どうしたの? なにかつらいこと思い出しちゃった?」
ボリュームを落として一期に尋ねる。
というのも、一期はつう~と一筋涙を流したのだ。無言で。無表情で。唐突に。
これは何かやらかしてしまったに違いなかった。