第4章 短刀推しがすぎる一期一振 ㏌ 短刀しかいない本丸①
幾分緊張した声だった。
真剣な表情は1ミリも笑っていない。
どこまでもひたむきな視線は、まっすぐカメラを射抜いていた。
聞き慣れた優しい声が、ひとつずつ言葉を積み上げていく。
「主君にお変わりはありませんか? 今の僕の練度はどのくらいでしょうか。修行から戻って以来、鍛練すればする程強くなっている気がします。だから一年後の僕は、今よりもっと強くなっていると思います」
真面目そのもの、である。
なんなら少し堅苦しくさえある。
言葉の端から端まで、揺るぎない責任感に充ちていた。
その言葉たちを紡ぐ面構えは、まるで戦闘時のそれだ。
普段の前田は礼儀正しく、それでいて角がない。
小鳥の声に耳を傾け、穏和に微笑む姿はさながら尊い身分のお方である。
マントもあいまって王子にしか見えない。
というか王子である(それでいて天使)。
「一年後の自分に恥ずかしくないよう、日々鍛練を重ねています。来週からまた新たな戦場が解放されるそうです。主君をお守りできるように、全力を尽くします」
そんな前田は、こうしてスイッチが切り替わるときがある。
戦闘時はもとより、“初鍛刀であること”を意識したときに、そのスイッチが切り替わる。
普段のかわいらしい姿から、“短刀しかいない本丸の、最も古株である初鍛刀男士”へと、その有り様を変えるのだ。
そのときの前田は、初期刀であり初鍛刀であるという矜持に溢れて、ひれ伏したくなるほどに凛々しい。
このギャップに、毎回死ぬ。
ただでさえ可愛すぎるのに、そんなに強くてかっこいいことある? と真顔で詰めたくなる(誰を?)。
二物どころか何もかもを与えすぎでは神?
神だから何物も持ってるのか神? と感謝以外の感情が消失する。