第3章 ネガティブすぎる審神者
「顕現していただいた際に、ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした」
「え……あ、あぁ」
思い出せば、最初の対面のとき、審神者はしばらく呆然としていた。
目も口もポカーンと開いていて、どこにも“審神者”たる威厳がなかった。
はじめは、実物の俺に期待を裏切られて驚愕と失望に陥っているのかと思ったが、この審神者の場合、おそらく違うのだろう。
「山姥切国広様の高潔で、それでいてとてもお優しい霊力に圧倒されたものですから……そのような尊い方に私のようなダメ人間がお仕えするなど――」
「そういうこと言うなよ」
思わず言葉を遮ってしまう。
言われた言葉をすぐには理解できないまま、言葉が口をついていた。
何度かのまばたきとともに、審神者の言葉を咀嚼する。
耳の奥で、それから頭の中で、彼女が声が繰り返し響きわたっていた。
それこそうるさいくらいに。
審神者は頭を垂れたまま、変わらず、しょぼくれた顔をしていた。
言ってから強い口調だったと気づいたが、審神者にはあまり伝わっていないらしい。
俺は布を目深にかぶり直し、顔が見えないように俯いた。
どうにも調子が狂ってしまう。
頬が熱を持っている気がした。
胸の奥の真ん中がむずがゆいような感覚がして、居心地が悪い。
居心地は悪いのだが、不愉快なわけでもない。
なんというか、悔しいのだ。