第3章 ネガティブすぎる審神者
刀を構える。
「ぎ、逆行陣です!」
審神者の声が飛ぶ。
一体どこから話しかけてきているのだろう。
今は確認すべくもないが。
審神者の指示を受けて間もなく、敵が斬りかかってくる。
さすがに機動では勝てない。
おまけに防具らしき防具もない。
刃を防ぐことも、受け流すこともできない雛同然の身体は、容易く斬撃を迎え入れた。
「ーーっ!」
一瞬意識が混濁する。
なにか熱く、火より少しだけ温いものが傷口から溢れる。
ちらと目で見れば、赤い液体が服に滲んでいた。
顕現されたばかりなのに、もう赤く汚してしまった。
汚い、と落胆されるだろうか。
口の端に自嘲的な笑みが浮かぶ。そうだ。自分は、これくらい汚れている方がお似合いなのだ。
ぐらつく視界の中で、どうにか敵の動きを捉える。
柄を握る掌は少しだけ汗ばんでいた。
傷口が、頭が熱くなっていく。
確かに汚してしまった。だが、それがなんだ。
どれだけ汚れていようが、どうでもいい。短
刀を軽く凌駕する刀身は、すでに敵をその刃長に収めている。
自分以外の霊力が体に流れ始めたのはついさっきだったが、ずっと前からそうだったようにしっくりきていた。
なにもかも初めての感覚が、肌の表皮を震わせる。
わずかな、しかし確かな高揚感が頭を冴え渡らせていった。
あの審神者にも、この感覚を伝えたいと思った。
「俺を写しと侮ったこと、後悔させてやる」
振り上げた一閃は、不思議と命中するという確信に満ちていた。
「死をもってな!」