第9章 優しさの中に芽生える嫉妬心
「美味しそうな匂いですね」
優しく声をかけられ、ビクッと反応してしまう
「…俺の好物、用意してくれたんですね?」
嬉しそうに近付いてくる炭治郎に
『…おかえりなさい、炭治郎君。さっきは…何も言わずに、いなくなってごめんなさい…』
怖くて、振り向けず背を向けたまま言うと
「ただいま、みずきさん。…俺、怪我しちゃったから診て貰いたいんですが」
すると、勢いよくこちらを振り返り
『どこを怪我したのっ?!』
作りかけのおにぎりを放り出し、炭治郎の身体を見ると確かに腕に爪痕のような傷があった
『ここ以外もあるの?毒は?気分悪かったり、眩暈や吐き気は?』
「…やっと、こっち向いてくれましたね」
聞いた事と違う答えが返ってきて思わず炭治郎の顔を見ると
驚くほど、優しい表情をしている炭治郎と視線が重なる
一気に心の臓を鷲掴みにされた
『…あ、炭…治郎君。ごめんなさい、怪我してるって言うから思わず…動転しちゃって』
「なかなか目を合わせてもらえなかったから、寂しかったです。みずきさん」
慈しむような瞳を向けられ、炭治郎のゴツゴツとした手が頬に触れる
「…怪我は大した事ありません。隠の方に治療されてます。俺を見てほしくて、言っただけです」
だから、心配しないでとイタズラな顔をされた
『…怒らない、の?』
「……みずきさんの口から直接、話は聞きたいですが怒ってませんよ」
炭治郎は優しく抱き締めると、首筋に鼻を近付け
「俺だけを好き、心配した、会いたかったって匂いがたくさんするから、怒ってません」
『…うぅ…炭治郎、君…』
炭治郎の腕の中で泣き出すみずき
「今は、無事で良かった、会えて嬉しい、…嫌わないでって匂いに変わりましたね」
鼻をスンスンさせながら、そのまま首筋に口付けを落とす
『…ん…はぁ、炭治郎君…』
「俺がみずきさんを、嫌う訳ないです…」
熱を帯びた赤い瞳に魅入られる
『…ごめんなさい』
「謝らなくていいですよ。…おにぎり、食べさせてくれたらもっと機嫌が直るんですが?」
珍しく可愛く甘える炭治郎に
『ふふふ、分かった!待ってね、今たくさん作るから』
漸く笑顔になるみずきに少し安心し、大人しくおにぎりを待つ事にした