第9章 優しさの中に芽生える嫉妬心
「む、君の手に持っているそれは薬湯か」
少し顔を顰める
『はい、お約束通り私がお持ちしましたので飲んで下さいね』
「…俺は飲ませてくれと、頼んだんだが?」
手首を捕まれぐいっと引っ張られる
危うく薬湯を溢す所だった
『…!急に手を引いたら危ないではありませんか!』
「すまない、もっと力が入るかと思ったが…思いの外、華奢だな君は」
『…炎柱様の力が強いだけです』
体制を整え
『はい、では飲んで下さい』
「…苦いものは、好まん…」
『これを飲まなければ、もっと苦い薬湯を用意するとしのぶさんが言っていましたが?』
ピクリと反応する煉獄
「…む、それは困る。では、君の手で飲ませてくれ」
『炎柱様は存外、子供っぽいですね。本当に今回だけですよ?』
「…今回だけなのか?」
熱の籠る赤と黄の燃える瞳が見詰めてくる
『…先程も言いましたが、私やしのぶさんは毎回いる訳ではありません。ご自分で飲めるようにして下さい』
「…俺は君に飲ましてほしいんだが?君が飲ませてくれるなら毎回、大人しく飲もう」
『…炎柱様』
「…あまり困らせても仕方ない、か。まあ、いい。潔く飲むとしよう!」
口を大きく開く煉獄に薬湯の入った湯飲みを傾ける
勢いよく飲みきり
「苦い!いつもより苦いっ!!」
『よく効くとしのぶさんが言ってましたので我慢して下さい』
と言いながら、懐から缶を出すと茶色い塊を1つ取り出し煉獄の口に入れる
「…嫌な苦味が、引いた。甘い!なんだこれは?」
『頑張ったご褒美です。キャラメルといいます。こちらは差し上げますね。…ですから、ご自分で飲めるようにして下さいね』
柔らかな笑顔に
「…君の、その笑顔を引き出したのは竈門少年か」
『…え?』
煉獄は怪我人とは思えぬ身のこなしでガバッと抱き締める
『…お離し下さい!傷に触ります!』
振りほどきたいがビクともしない
「…君は残酷だな。そのような可愛い笑顔を向け心配してくれるのに…気持ちにはずっと、答えてくれないばかりか……竈門少年と恋仲になったと聞いたが?」
『確かに炭治郎君と恋仲に、なりましたが。炎柱様には前にきちんとお断り申し上げておりますが…』
「確かに、断られたな。だが、竈門少年よりもずっと前から君を見ていた俺としてはなかなか…身を引く気にならない」