第8章 記憶を取り戻した彼が望むのは ~曼珠沙華~
しのぶがみずきに視線を向ける
「みずきさん、時透君は苦い薬を飲むの嫌がりますので甘やかさず毎食後、しっかり飲ませて下さいね~?」
アオイだけじゃなく、しのぶにまで釘を刺され
どれだけ嫌がっていたのかとみずきが再び無一郎を見ると
何とも言えない無表情を浮かべて、またプイッとそっぽを向いた
「アオイちゃんからも言われています。ご迷惑をおかけしていたようで申し訳ありません。必ず飲ませますのでご安心を」
またピクリと反応する無一郎
…そんなに嫌がるほど、苦いの?
「みずきさんがついてれば、そこは心配いらなそうで安心です。…あとはゆっくり療養さえして頂ければ何も言う事はないのですが~?」
ニコニコしながら、無一郎にだけ圧をかけるしのぶ
「…善処します」
『善処じゃなくて絶対だよ。無一郎』
命令通り、初めて人前で敬語を使わないみずき
今じゃないよと、思い顔を顰める無一郎
その様子を見て、一瞬固まるしのぶだがすぐに気を取り直し
「はい、お願いしますね~。薬がなくなったら、経過観察だけしたいのでまたこちらに来て下さいね」
「『分かりました』」
同時に答えるとしのぶは満足そうに
では、お大事に~と言って手を振った
蝶屋敷から出て、しばらく無言だったが
「…はぁ、上弦の鬼より胡蝶さんの方がよっぽど怖いよ」
と無一郎が言ったので
『無一郎、それはいくら何でもひどいよ…』
「…だって、圧がすごいんだもん」
子供が叱られた後、拗ねた顔をするように無一郎が口を少し尖らせた
『…ふふふ、心配して言ってるんだから鬼と一緒にしちゃ失礼だよ』
みずきの柔らかな微笑みに
「…ねぇ、僕が言ってた準備…したの?」
突然、聞いてくるから驚き躓くと
「わ、あぶないよ!…もうみずきって、たまに鈍いよね」
片手で支えられながら
誰のせいよっ!と赤面しながら睨むと
「…何、その顔?誘ってるの?」
『何で、そうなるの?!』
「だって、赤い顔してこっち見るから。…それも僕への準備かと思ったのに、残念だな~」
ニヤニヤしながら、こっちを見やる無一郎の余裕に
あとで覚えてなさいよと、思うみずき
準備してない訳じゃないからねっ