第6章 吸血鬼に甘く奪われて…(炭治郎の場合)
変わらぬ速度で話す
『…本心を隠す為か、聞いたでしょ?炭治郎君みたいに五感のどれかがずば抜けて良い人には効かないけど大抵の吸血鬼ならこの香を嫌がる。近付いて来ないから…余計な事にならないの』
それからね、と続ける
『…この香で鬼を誘き寄せる目的もあるの。吸血鬼は好きじゃない香りだけど、鬼は好きらしいの』
少し遠い目をしながら話す
『…良くも悪くも私は人間だから、餌や囮にはなるから』
「…あの、敢えて聞きますけど、餌や囮になるなら稀血を使わないのは何故ですか?」
またみずきが驚く
『…こんなにキツい香の中からこんな微かな藤の花の香りまで分かるの?』
「…はい、俺には分かりますが普通は分からないと思います」
『そっか、炭治郎君には隠せないんだね。そうだよ、稀血だよ。…最初は使ってたの』
でもね、と少し暗い表情になる
『流石に柱の人はないけど、普通の吸血鬼の隊士には稀血の誘惑はキツいみたい…』
「…襲われた事があるんですね」
みずきは静かに頷いた
『…その件以降、人と吸血鬼は基本、任務は別になっちゃって、皆に迷惑かけちゃったから稀血を使うのやめたんだ。暗い話でごめんね』
「いえ…こちらこそ、聞いちゃってすみませんでした」
そんな会話をしてると
みずきが急に止まり、辺りを伺う
まだ目的地より手前だが
『…炭治郎君』
「はい、近くにいますね」
凄いな、俺は鼻がいいから分かるけど
みずきさんは経験と五感を研ぎ澄ませて察知してる
漂ってくる腐敗臭と濃い血の匂いに炭治郎は顔を背ける
…すごい匂いだ、鼻が曲がりそうだ
『…炭治郎君、来るよっ!』
かけられた声と同時にお互い、飛びかかってきた鬼の攻撃を躱す
「…チッ、避けられちまったか」
苛つきを露にする鬼
その目には下弦にバツがついていた
「また鬼狩り共か、何人来ても同じ…」
と言いかけて、みずきを見る
「…いや、お前は美味そうだ。たまらん匂いだ、強い女隊士は栄養になる。良い餌が自分から来やがったか。お前を喰えば十二鬼月に戻れそうだ」
下卑た笑みを浮かべる鬼は炭治郎は視界に入らないようで
「…お前の相手は俺だぁぁっ!」
水の呼吸で斬りかかる炭治郎
鬼は難なくそれを避け、みずきに一直線に襲いかかる