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目眩く一時 ~刹那の情事~

第4章 吸血鬼に甘く奪われて…(義勇の場合)





その日は突然だった


いつも通り、任務をこなし戻る道すがら

今まで感じた事のない飢餓感に似た乾きのような物に襲われた

おかしい、任務前に胡蝶から受け取った輸血パックは摂取した

鬼を斬った後、血鬼術の気配も何もなかった

一体、どうしたというんだ

あまりの衝動にその場に膝をつき乱れた呼吸を整える

幸い、山奥の道だから誰も通らないと油断していた

ふいに甘い香りが漂う

『…あの、大丈夫ですか?』

女が声をかけてきた

見上げると外見的に俺とあまり歳が変わらない(少し下か)女がいた


藤の花の香りが混じった、とにかく甘い食らい付きたくなる香りに目眩がした


この刹那に稀血か…


「…問題ない、少し休んでいるだけだ」


こんな誰も通らない山道で二人でいるのはかなりまずい


『どう見ても大丈夫ではありませんよ?』

「……問題ないと言っている。早く、この場から去れ」

俺の理性が保つうちに

『…お困りなんですよね?鬼狩り様』

その言葉に驚き、僅かに目を見開く

「…俺が鬼狩りだと分かるのか?」

『はい、前に鬼狩り様に救われた事があります。隊服を着てらしたので…』

そして、女は手首を差し出してきて

『どうぞ、吸って下さい。…牙が見えていますよ?飢えているのでしょう?』


指摘され、思わずバッと口許を手で隠す

『大丈夫です、引いたりしません。ここで会ったのはきっと私があなたのお役に立てるからですよ。』

ずいっと手首を目の前に持ってきて

『…吸って?』

その色香ともとれる表情に

冨岡の深海のような深い青の瞳がギラリと光り欲を宿す

「…俺は去れと、言ったはずだ。お前が後悔する事になる」

『大丈夫です、あなたをこのまま放っておく方が後悔します』

まったく引かない女の様子にいい加減、我慢が効かなくなり

仕方なく、その場から立ち上がりフラフラしながらも逃げるように去ろうとすると

後ろから抱きつかれ

『お願いっ!無理しないで吸って!』

甘い香りが俺にまとわりつく

普段なら簡単に、はね除けられる程度の力にも抗えない

『…人目が気になるなら、私の家が近くにあります』


と手を引かれ歩き出す


そうでは、ない…


そもそも元から誰もいない


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