第2章 忘れっぽい彼の忘れられない人
向こうから見慣れた姿が
「…あァ?何やってんだ、お前ら」
『実弥さんっ!』
みずきの助けを求めるような視線に気付き不死川は
「あー…時透よ、みずきが困ってるから離してやれ」
すると、無一郎は不機嫌そうに
「何で不死川さんは普通に名前で呼びあってるのに僕は嫌がるの?」
みずきを掴む手に力が入る
『…痛っ…無一郎、様…お許し下さいっ』
「やだ、納得出来ない。何で僕はダメで不死川さんはいいの?」
その様子を見て、不死川は慌てて
「オイ、時透やめろ!どうしちまったんだァ?みずきは俺に命助けられて、それがきっかけで鬼殺隊に入ったんだ!だから、名前呼びは特別な意味じゃねェ!最初からそうだったんだ!」
しかし、無一郎は不死川の方を一切見ずみずきを見据える
「ねぇ、僕はみずきに聞いてるんだけど?」
『…無一郎様が思うような関係ではありません』
「それ、僕の質問に答えてないよ?な・ん・で・不死川さんは名前呼びで僕はダメなの?…もしかして、不死川さんが好きなの?」
『そのような事は決してありません!』
不死川は少し、ほんの少しピクリとした
「じゃあ、呼べるよね?無一郎って」
『…無一郎、さん』
「ダメ、無一郎」
『……む…無一郎』
「うん、いい子」
表情が柔らかくなり、頭を撫でられる
「……あれ?不死川さん、まだいたんですか?」
その発言に激昂する不死川
「あァ?!テメェ、殺すぞ、ゴラァ!?」
それを特に気にする様子もなく
「僕はこれからみずきと大事な話がありますので…不死川さん、さようなら」
言うが早いか、既に遠くにいる二人に
「…本当になんだったんだァ?ったくよォ!」
実は不死川もみずきに大事な話があったが、無駄足になり小石を蹴っ飛ばし踵を返す
「……なんでこうなんだァ?……俺はアイツが幸せになりゃ、それで…いいけどよォ」
確信めいたものを察知し、誰にも聞かれないように呟いた一言は風が拐っていった