第2章 忘れっぽい彼の忘れられない人
…あれ、今何か考えてたのに忘れちゃった
まぁ、いいか、どうでも…
任務の後、お館様に報告して帰る途中
時透は道すがら、ある人物が目に入る
木刀を振るいながら、撃ち込み台を的確に破壊し、無駄のない足さばき
ふーん、良い動きじゃん
と、顔を見ると
「あ、みずき…」
その声に反応し、相手が動きを止めた
『……霞柱様でしたか、お疲れ様です』
汗を布で拭いながら、柔らかな笑顔を向けるみずきに時透は
「ねぇ、何時になったら僕を名前で呼ぶの?継子の指名も断るし、僕の話ちゃんと聞いてる?」
瞬く間に距離を詰められ
思わず後退り身構える
『…何度も申し上げていますが、私は風の呼吸を使ってますし階級も低いです。名前を呼ぶ等あるまじきですし、継子なんて務まりません』
「…やっぱり僕の話聞いてない」
はぁ、とため息をつき
「僕も何度も言ってるけど柱の僕が、名前呼びを許可してるの。継子に指名してるの、分かる?」
と圧をかける
「みずきがどう思うかじゃなくて、柱の僕が決めるの。いい加減、時間を無駄にするのやめてくれない?」
みずきの手首を掴み、壁際に縫い付ける
『…痛いです、離して下さい…』
「…この間もそうやって逃げたよね?今日という今日は逃がさないよ、時間が惜しいからね」
これ以上怒らせるとまずいと思い、渋々名前を呼ぶ
『…無一郎様はあまり他人に執着がないと思っていました。忘れやすいとも。…何故、私とのやり取りは覚えているのですか?』
無一郎の目がぱちくりした
「そういえば…何でだろう?」
みずきの顔を凝視しながら
考え始める、手首はそのままに
『…あの、離してもらえませんか?』
「今、考えてるから話しかけないで」
理不尽な…と思いながらも仕方なく黙る
しばらく膠着状態が続いたが
無一郎の表情が変わり、何故か柔らかい表情になり
「…そっか、そう言う事か」
と一人納得し
「ねぇ、みずき。大事な話があるから今から僕の屋敷に来て?」
言うや否や、手を引かれ歩きだす
…え、何の説明もないまま?返事もしてないのに…とみずきが困ってると