第11章 高貴な方の唯一無二の支え~スルタン~前編
腕をガシッと掴まれ
「どこに行く気だ?」
と、問われたので
『…自室に戻りますが?』
すると、呆れ顔をされ
はぁ~と深く長いため息を吐かれた
…何か、問題があるのでしょうか?
「………さっきも聞いたが、まだ自覚がないのか?…俺の妃になるのだろう?使用人の部屋になど、戻るな」
『…で、では、荷物を纏めて参ります』
「何故、そう頑なに戻りたがる?明日の朝、侍女にやらせれば済む話だ」
『…か、考える時間が頂きたく…』
「それこそ、何を考える?……まさか今更、俺の名を呼んでおいて反故にする気なのか?」
義勇様から恐ろしい圧をかけられ、生まれて初めて身がすくんだ
…今までこんな凄い方の護衛が普通に出来ていた自分が信じられない
これだけのオーラを常に出していたら、本来なら護衛など飾り程度だろう
実力を隠していたのだ、今の今まで
侍女頭として近くにいて、護衛として側に控えていたのにも関わらずだ
…私はとんでもない方に見初められたかも、しれない
そんな思案を他所に
当の義勇は勘違いで大変、ご立腹で今にも雷が落ちそうだ
慌てて口を開いた
『そのような、邪な考えでは決してありません!』
「………では、今の間はなんだ?」
『それは、今の今まで義勇様の実力を見抜けなかった自分に…呆れていました』
「…?何の話をしている?」
『…義勇様が、お怒りになった時のオーラ…王族だから出るようなモノとは明らかに違いました。あれは…人一倍鍛え、死線を何度も潜らねば出ないモノ。私の浅はかさと未熟さを…痛感、致しました』
少しハッとした表情をした義勇は
「……俺からすれば、そんなモノは普段から出すモノではないからな。知らなくても何ら不思議ではない」
『いえ…侍女頭、護衛として誰よりお側にいましたのに気付かない等…あるまじき事です』
「…………出来れば、気付かれたくないと思っていた」
『…え?』
義勇は罰が悪そうに髪を乱暴にかきあげると
「…目立つ奴が他にいるからな。出来れば、目立ちたくない。このまま、ある程度自由が利く立ち位置にいたい」
『…えっと、それは王位継承権のお話でしょうか?』
「あぁ、俺は先に産まれてはいるが母の家の位が高くないのでな。幸いにも、継承権は2番だ。このまま、穏便に奴に継承してもらいたいと考えている」