第10章 10、ヒーロー
そこから数秒の沈黙。
そして彼はまた口を開いた。
『ゆめは、可哀想な人だね。』
少し寂しそうな、悲しそうな表情で彼は呟いた。
「え。」
確かに普通の人、とは言えない過去を持っているかもしれない。それが彼にどう伝わったのか。
また小さな沈黙があったあと、小さな呼吸音で沈黙は破られた。
『、、、、、まず、君は右耳が聞こえないね?』
「、、、な、んで」
思わず彼を睨んでしまった。
なんで、ちゃんと補聴器は見えない様にしているはずだし、左耳もちゃんと聞こえてるのに!
『理由は2つ。1つ目は人の話を聞く時に無意識に左耳を話し手に向ける癖がある。それに、さっき店長が君に話しかけた時、左耳に向けて話しかけていた。』
『2つ目は、右耳にだけかかった髪。昔、補聴器のせいで虐めにでもあったのかな。、、、、補聴器、見られるの怖い?』
机の上に置かれた彼の左手が、ゆっくりと私の隠れていた右耳を露わにする。
見せるのが怖いはずなのに。
誰にも見せたくないはずなのに。
私に向けられた言葉はとても優しくて、触れられた耳が熱くなる。
時間が止まった気がして、彼から目が逸らせない。
「ゆめちゃん。何をしているのかな?」
そこには、休憩から帰ったであろう店長が真っ黒な瞳で私を見つめていた。
『ん~~~、これだけじゃあ、名探偵には程遠いかな。』
話しかけてきた店長に見向きもせず、彼は続ける。
カウンターから伸びた店長の手は、私の腕をギリ、と強く掴んだ。
「、、、お客様が、私の店子になにか様ですかな?」