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【文スト】愛故に【江戸川乱歩】

第10章 10、ヒーロー




「いらっしゃいませ!」

桜が舞い散る季節、私はヒーローに出逢った。

『へぇ、外観は綺麗でも中身はそうでも無いんだ。』

胡桃色のマントを翻しながら、同じ色をしたハンチングを取った男性が言う。

その男性は自分が用意されました!と言わんばかりの自信でカウンターに座り、

『善哉ある?あ、出来れば餅抜きで!』

と言った。おかしな人、、、。

「畏まりました。少々お待ちくださいね。」

水を出してやり善哉を作る。
餅抜きか。餅を使うメニューは他にもあるし、試してもいいかもしれない。
そう思って椀に餡を注ぐ。


「何をしているんですか。」

低い声が左耳に響く。

「て、店長!お客様が、餅抜きの善哉を所望していたので、作っていました。」

「、、、残念ですが。餅抜きの善哉はうちではやっていませんよね。」


作り直しなさい。との言葉と一緒に太ももをなぞられる。
気持ち悪い。でも、居場所の無い私に仕事を与えてくれる人は店長しか居ないのだ。






「お待たせ致しました。こちら、善哉です。餅が入っていますが、、、」

『あ、そうなの。まぁ避けて食べるし良いよ。』

嬉しそうに口角を上げ、善哉を頬張る彼。


このお店は殆どが常連で、彼のようなお客様は余り見かけない。


今は店長も休憩中。
彼の存在が気になった私はつい話しかけてしまった。
10分位、彼の隣に座ってもいいだろう。

「こちらでは見かけない方ですが、どうしてここに来てくださったんですか?」

『ん~~~?、、それはねぇ、仕事で。』


「仕事。」


『そうそう。しごと。僕は名探偵だから、警察も僕に頼りっきりでねぇ。』


名探偵、なんて小説の中だけでは無いのか?

少し訝しげに彼を見やると、それを見計らったかのように彼は口を開く。

『信用してない顔してるねぇ、君。』


「、、そうですね。名探偵、なんて物語だけの話だと思ってました。」


『ふーん。君、名前は?』


「ゆめです。」


『じゃあゆめ。今から僕が、話を聞かなくても君の生い立ちを話してみせよう!』

『そうすれば僕が名探偵って分かるでしょう?』


眼鏡を取り出し不気味に笑う彼。
少し楽しくなってきた私は、身を乗り出し話を聞く。


眼鏡を掛けた彼はこう呟いた。




『、、、、超推理。』
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