第10章 10、ヒーロー
怒ってる。叱られる。
その恐怖に怯えていると、
『ちょっと!今は僕がゆめに名探偵ぶりを披露していたんだけれど!』
店長の手を解きながら彼はそう言う。
「へぇ、じゃあその『名探偵ぶり』見せてもらおうじゃないですか。」
店長は名探偵など、と笑いながら彼に向かって嘲笑を浮かべていて。
彼は冷たい眼差しで店長を捉えていた。
『貴方はゆめにセクハラ、、、それより酷い事をしているんだね。』
「、、、ほぅ。それで?」
『ゆめは今、20くらいだね。反対した両親と縁を切り、料理系の専門学校に通っていた。今も料理は大好きだ、使われた手が物語っている。』
『けれど耳の件で虐められ、泣く泣く退学し、路頭に迷ってる所を貴方に拾われた。そこまでは良いけれど、拾われた弱みを握って色々したんだねぇ。彼女は貴方に怯えきりだ。』
「そうですね。全て当たっています。でもそれがどうしたって言うのです?なにも悪い事はしていないじゃあないですか!」
正論を突き立てられた事に腹を立てたのか、バン!と机を叩きながら怒鳴りつけてくる。
『、、、別に、僕は事件解決の為にここに来た訳じゃあない。』
「じゃあ何をしに、、、!!」
『外から見た彼女が素敵だったから。』
告白のような言葉をいとも簡単に言う彼。顔に熱が溜まるのと同時に、彼はこちらを向いて、
『ねぇ、ゆめ。君はどうしたい?』
先程店長に掴まれた腕を優しく撫でながら聞いてくる。
「、、、、ここから、逃げたい。」
小さくつぶやく。
逃げて、誰の目も気にせず笑顔になりたい。
誰かを愛して、愛されたい。
震える手をきゅ、と握ると、
彼は店に入ってきた時と同じような明るい声で言う。
『そうか!じゃあ武装探偵社に来るといい!』
『僕が居ないと何も出来ない人達ばかりだけれど、』
『セクハラなんかするそこの愚図みたいな奴はいないよ。』
優しい色が視界に広がる。幸せな色。
「待て!!!!其奴が居なくなったらうちの店はどうなる!!!」
怖い怒鳴り声からも、胡桃色のマントをつけたヒーローが守ってくれる。その守り方はどこかぶっきらぼうだけれど。
『別に人が1人欠けたぐらいで店は回るでしょ、はいこれ、善哉代ね。』
銭をカウンターに置くと私の手を引き店を出る。