第2章 ポッキーの日
<スティングの場合>
「嫌だったら嫌だ!」
「頼む、ノエル!この通り!」
「死んでも嫌!」
目の前で腕を組んだままそっぽを向いている彼女は付き合って長くなる。いつもは俺の(俺に限ったことではないのが腹立たしいが)頼みを快く聞き入れてくれるノエルだが、今回のお願いは清々しいまでに断られた。
それどころかこのお願いによって滅多に悪くなることのない機嫌は下降気味だ。
「何で!?」
「どう考えても恥ずかしいからでしょ!」
「みんなの前でじゃなくてだな、」
「2人きりでも嫌だ。」
「そんな…。」
そのお願いと言うのも今日が11月11日であることに関係している。ポッキーというお菓子を使ったゲームがあるらしいということをルーファスから聞いた。
そのゲームを液晶ラクリマで見た時は思わず赤面してしまったが、2人でならやってみたいという欲望が頭をもたげた。
そして今日、思い切って言い出してみたのだが、案の定彼女は顔を真っ赤にしてきっぱりと断った。
予想はしていたが、がっくりと肩を落としてしまう俺は悪くないと思う。
付き合ってから長くなるとは言ったが、極度の恥ずかしがり屋な彼女は外ではおろか、2人きりの時にキスするのも一苦労なのだ。
照れている顔も勿論可愛いのだが、俺的にはもっとくっ付いていたいし、もっと触れ合いたい。何より恋人なのにこんなに友人と変わらない距離感でいるのは寂しい。
「なァ、ノエル。」
「なに?」
「ノエルともっとくっつきたいって思うのは俺だけか?」
「~!私も、だけど…。恥ずかしいの…。」
その顔は反則だろ。でも今日はノエルが妥協してくれるまで引かない。
「家でも恥ずかしいか?」
「家では…その、」
「ん?」
「離れたくないって、思っちゃって…。離れられなかったら、スティングも、困るでしょ?…うわっ!」
徐々に俯きがちになっていくこいつを抱き上げて、そのまま抱き締める。今までは恥ずかしいと言うこいつに遠慮していたが、それももう限界だった。
それに、暴れると思っていたこいつは思いの他大人しくて、多少は強引な手も有効なのかもしれないと思った。
その日家に帰った俺は当初の目論見通り、ノエルにお願いを聞いてもらうことに成功した。