第2章 【同業者】
チャンピオン街の狭い小道を左に曲がると行き止まりで鵜沢がノミ屋の男と取引をしているらしき現場に到着した。
そこにはその2人以外にもう1人の見知らぬ男が立っていた。
『(革ジャンにジーパン…。この人が源三くんの言ってた…)…まさか。同業者だったりする?』
「…可能性としてはありえなくはないですね。鵜沢が複数人にお金を借りていてその被害者からの依頼が他探偵事務所と同時に被ってしまった…と言ったところでしょうか。」
香はスマホを胸ポケットに仕舞うとターゲットである鵜沢の元へと歩いた。
すると、香とは逆にノミ屋の男がすれ違うように逃げる。
『そこの革ジャンの貴方、ちょっと良いですか?』
「……ん?俺…?悪いけど今ちょっとお取り込み中なんだよね。」
革ジャンの男は不思議そうな顔をして香の方を向いたがすぐさま鵜沢に視線を戻した。
そんな男に鋭い視線を向けると香も同じく鵜沢へと視線を向けた。
『こちらこそすみませんが私もその男に急ぎで大事な用があるんですよね。その馬券に使う予定だったお金、私の依頼主へ返してもらえませんか?』
「は…?」
革ジャンの男は意味が分からないと怪訝そうな顔をしたが鵜沢はハッと思い出したような顔をした。
「ま、まさかアンタさっきの…」
『えぇ。あの瞬間に小型のGPSを仕掛けさせてもらいました。まさかこんな事される"身に覚えがない"なんて言いませんよね?それとも身に覚えがありすぎて誰だか分かりませんか?…まぁ、貴方が一体何人からお金を借りたのかなんて知りませんが。別に良いですよ?今この場で返してもらえないならその役目を弁護士に譲るだけですから…。一言アドバイスするなら今この場で返した方が楽だとは思いますけど。私もその方が助かります。手続きとか色々面倒くさいので、』
勝手に進んでいく話を一方的に聞く側になっていた革ジャンの男はそんな2人にストップをかける。