第2章 【同業者】
香は八神の手から弁護士バッジを受け取るとクルクル回しながらじっくりと全体を眺めた。
「俺は過去に弁護士やってたんだ。…色々あって辞めることになったんだけどさ。ハッタリ用として使ってはいるけどそのバッジは使えないわけじゃない。今でも戻ろうと思えば弁護士に戻って前みたいに仕事だって出来る。でも、もうそれは俺にとって飾りでしかないんだ。それ以上の意味は…ない。」
八神はそう言うと香が持つ弁護士バッジを何か意味を含んでいそうな目で見ていた。
決して良い意味は含まれていない。
『今でも法廷に立つことは出来るけどそうする気はないってことですか…?でも探偵より弁護士の方が稼げますよね。どうして弁護士に戻らないんですか?』
「それは…、」
顔を俯かせ言葉を詰まらせた八神にその過去と経緯を知っている海藤は心配した。
「ター坊…」
『まぁ、いいです。別に八神さんに興味があるわけではないので。他事務所の偵察程度に聞きたかっただけですよ。』
香は2人の暗い表情を見た瞬間にただならぬ理由があったのだと察知した。
出会ったばかりでこの話に触れるのは野暮だと判断した香は八神へそのバッジを返す。
「え…?まさかまだ俺たち敵視されてんの?」
さっきまでの暗い雰囲気が吹き飛んだ八神は香の発言に目を丸くした。
『当たり前ですよ。そもそも同業者なんて依頼主の取り合いなのに何故仲良くできると思ってたんですか…。』
「同じ悩みを持つ同士…みたいな?」
『はぁ…呆れます。』
香は片手で額を抑えると呆れ顔で首を振る。
『悩みは弱みになります。それを他探偵に打ち明けるなんて馬鹿がすることですよ。』
「うーん、俺は香ちゃんと仲良くしたいんだけどなぁ。」
困り顔で頭を掻く八神に香は鋭い視線を向けた。
『…で、そろそろ本題に入りませんか?私も暇ではないので。』
「そうだった。ごめんごめん。」
2人は少し冷めたコーヒーを飲むと話を続けた。
「それで本題なんだけど…。さっき鵜沢から受け取ったお金…あれさ『あぁ、その話ですか。』…ん?」