第26章 秋
「あークソ、ダルすぎ…」
体操着を忘れてしまったのを思い出し、一度帰宅したにも関わらず再びこの教室に戻ったのはもう随分と日が落ちた頃。
生徒もほとんどいない。
普段喧騒まみれのこの校舎に、パタパタと自分の足音だけが響く。なんだか不思議な感じだ。
「……ん?」
自分だけかと思ったその階には、どうやら自分以外の人間もいたらしい。
前方に見えたその人をオレは知っている。
ピアノが上手く、ミスコンにも選ばれていた3年の女子生徒。
知っている理由は、オレが先月フッたからだ。
先輩は周囲を気にしながら2年4組へと入っていった。その姿はあまりにも不自然すぎる。
胸がざわついた。
あのクラスは、あいつの……
足音を立てないよう、扉の窓ガラスからそっと中を覗く。
先輩は誰かの机に何かを入れた。
ラブレターなどではない。もっと大きな、あれは
楽譜だ。伴奏者用の。
「何やってんすか」
「え!?あ、ま、松野くんッ……」
教室に入り、止めさせる時間さえ与えず強引に机の中から楽譜を取りだす。
裏には記名がされていた。
「……これ」
「あ、ひ、拾ったの!落ちてたからッ……」
「こんな時間に?どこで拾ったんすか?」
「た、体育館で」
「いつ?」
「今日の合唱コンクールが終わった後に…落としたのかなって思って届けにきたの……」
「へえ、でもあいつ」
オレはそれが嘘だと知っている。