第26章 秋
「うわ……すっご……」
「あんな伴奏されたらいくら歌頑張ったって意味ねーじゃん」
「てかなんで楽譜もってねーの?」
「簡単ですアピールだろ」
「性格悪!心の中で他の伴奏者のこと見下してそー」
レベルの高い演奏から生み出されるネガティブな声。オレには全く共感できなかった。
日本一を取るような少年が、こんな学内のコンクールでさえ真摯に向き合って演奏している。
彼は音楽を、ピアノを、心から愛しているのだろう。
『結果を発表します! 最優秀賞は2年4組です、おめでとうございます!』
続きまして、最優秀賞指揮者賞と伴奏者賞の発表です。
最優秀賞指揮者賞は3年1組 中野誠くん、
そして最優秀賞伴奏者賞は 2年4組 くん、2年連続受賞です!』
「はぁ〜、またあいつかよ」
「あのメガネ君、俺嫌いだわ。生意気だよな」
「一々癪に障るよなぁ。千冬もそう思わねえ?」
「……おう」
ピアノは日本一で、なのに孤独で、憎たらしくて、不思議なほど目を引きつける。
ほんとうに、癪に障る。
ああ、まだ体育館中にあのピアノの音色が木霊しているみたいだ。