第26章 秋
「体育館手ぶらで行ってましたけど」
ずっと彼を、見ていたから。
「え……」
気持ち悪いと言われても仕方ない程に見ている自覚はその時はなかったが、オレは自然と彼を目で追っていたようだ。
教室から出てきて、他のクラスメイト達から数歩離れた後ろを寂しそうに歩く小さな彼の姿。
あの時、手には確かに何も持っていなかった。
「隠したんだろ、あんた」
「ッ、ぁ……ち、ちが」
「じゃあなんで持ってたんだよ。
この教室に入ってから、迷いなくこいつの席がわかったのも変だし。
盗んだんだろ、この机の中から」
「……」
「ホントの事いわねえなら先公にチクるけど。受験前にやべーんじゃねえの?」
その気はさらさらないけど。
「ッ……!!わ、私だって、伴奏者賞欲しかったんだもん……!!」
「……で、盗んで隠したのかよ」
「だって……!」
理由はあまりにも身勝手だった。
そこまでされても演奏は全くブレず、挙句最優秀賞伴奏者賞は彼の手に。
なんて無様なんだ。
そして彼は、
『てかなんで楽譜もってねーの?』
『簡単ですアピールだろ』
『性格悪!心の中で他の伴奏者のこと見下してそー』
言われのない中傷を受けた。
「……」
「ま、松野くん?私正直に言ったから、その」
「……だな」
「え?」
「最低だな、アンタ」
こんなにイラついたのも久々だ。