第25章 独占欲
「よう〜!!番犬はどこいった??」
「番犬って…千冬のことか?あいつは犬じゃねえ」
「冗談に決まってるだろ、真面目だなぁホント」
「あっそ。ちなみに千冬は理科室。塚本先生の備品整理の手伝い中だ」
「は!?千冬が!?」
「?何驚いてんだよ。生徒たるもの世話になってる先生の手伝いをするのは普通だろ」
「いや…でも千冬だぜ…塚本がビビりそうだけどなぁ」
「先生を呼び捨てにするなよ」
「なになに?千冬がどうしたって?」
千冬という名前だけで、興味を抱いて人が集まる。やっぱあいつはすげぇな、なんて何故か心の中で勝手に得意げになっていた。
「千冬が塚本の手伝いしてるらしい」
「千冬が?」
「なんで」
「それを今に聞いてるんだよ。な、!」
「…はぁ。お前ら千冬をなんだと思ってんだよ」
「そら……喧嘩最強の松野千冬様だろ。で、なんで手伝うことになったんだ?」
「…………それは」
遡るほど20分前。
弁当を食い終わり、音楽室を出て教室に向かう途中の理科室の前で塚本先生に会った。
「塚本先生、こんにちは」
「やあ、こんにちは君。……ま、松野君も……」
「あ?オレがいちゃいけねえのか?」
「おい千冬、お前先生になんて口の利き方するんだ」
「ハァ?関係ねえよ、先公だろうが大統領だろうがオレに舐めた態度取るやつは許さねえ。お前以外」
「馬鹿かお前は。……塚本先生はこれから授業の準備ですか?」
「いや、そのつもりだったんだけど備品の整理が終わらなくてね」
「そうなんですか。千冬、弁当箱貸せ」
「?おう」
「この弁当箱は俺が責任もってお前の机に送り届ける。塚本先生の手伝いをしてこい」
「おう!は?ふざけんな、誰がやるか」
「あ?俺がやれって言ってんだよ。お前は普段から先生方に迷惑かけてんだからたまには手伝いくらいやれ。俺も後で行くから。それじゃあ塚本先生、また後ほど」
「ちょ!!」
「あ、ああ…」
正直なところ、半分は今朝の腹いせだ。
もう半分はまた別で、先程の塚本先生の反応でわかるように千冬は先生方からの評判が終わってる。
高校進学も考えている彼は少しでも先生からの好感を上げて、内申点をあげれるよう努力した方がいい。
その手助けをしてやろうという、俺なりの粋な計らいなのだ。