第25章 独占欲
月曜日の朝。インターホンが鳴り響く。
昨日メールでの宣言通り、時間ピッタリに鳴らされた音に思わず体が強ばる。
『明日迎えに行くから、一緒に行こうぜ』
メールが届いたのは昨晩9時の事。
遠回りなのに、わざわざ迎えに来てくれる。家族以外に、自分のためにこうして不必要な労力を費やしてくれる存在がいる事がどれだけ幸せなことか。それは痛いほどわかってる。わかっているが、あの夏祭りの時の事を思い出すと、どうしても会うのが気恥ずかしくなってしまうのだ。
「(どんな顔して会えばいいんだよ…!千冬のバカ…)」
だってあいつは、俺の事が。
『オレは、お前と友達じゃなくて恋人になりたい』
「こ、こ、こい、こ………」
「!玄関でぼーっと座り込んで何ブツブツ言ってるの?松野君待ってるんだから、はやくしないと!」
「わ、わかってる!わかってるよ、もう!いってきます!」
突然の背後からの声に驚いて、思わず大きな声を上げてしまった。半ばヤケクソになりながら扉をあけ逃げるように外に出た。
門を出れば、携帯をいじりながら待っていたのだろう。画面から目を離し、俺を見て微笑んだ。
「よ!おはようお坊ちゃま」
「うるせぇ」
「あれ?なんか機嫌悪い?」
「悪くない」
「ならいいけど」
普通だ。驚くほどいつも通りの千冬だ。
なんだよ、変に意識してんの俺だけか。
「…ムカつく」
「なにがだよ」
「お前がムカつく」
「え、なんでだよ」
なんでだよ、か。自分ばかり変に意識してお前が拍子抜けするくらい余裕だからだ、とは意地でも言ってやらない。
どうせ更にイラつくだけだ。
「……なんでもねぇよ」
ミンミンと合唱する蝉の声が、なんだか一人で空回ってる俺をバカにしているようにすら聞こえた。