第23章 2005年 夏の回想
『音楽部よりお知らせです。
2年4組くん。
中学生全国ピアノコンクール最優秀賞に選ばれました。2年連続最優秀賞です』
甘めの卵焼きを咀嚼していた口が思わず止まる。
「(、……)」
そうか、彼は今年も優勝したのか。
「へえ、この学校にもすげーやつがいんだな」
「…………」
「千冬ぅ、眉間にシワよってんぞ」
「……え!?あ、はい、すんません」
昼の屋上。雲ひとつない、よく晴れた青空の下。敬愛する先輩との昼食中にもかかわらずぼうっとしてしまったのは、あの放送のせいだ。
「もしかしてさっきのやつ、お前の知り合いか?」
「いや、あいつは…………。弱えくせに、クソ生意気なだけっすよ」
「ほう?」
白い歯を覗かせ、ニヤついた顔でオレを見る。
その視線がなんだか嫌で、逃れるようにコーラのキャップをあけて口に含んだ。
「お前、そいつの事気になってんだろ」
「ッ!!??ゲホッ……!!」
思わず噎せる。それを見て場地さんは、今度は声をあげて笑った。
「ぶはは!!図星か!」
「ちがっ、違います!……去年、先輩にカツアゲされてるとこ助けたんすよ」
「へぇ、それで?」
「それで?って……それだけっすよ。ただ……助けた後に、『不良のくせに偉そうにするな』って言われただけです」
「ぶはははは!!!マジかよ!!って一回見たことあるけどよ、あんなちいせぇのに随分舐められたもんだなァ?」
何も言い返せない。
「だけどまぁ、お前が気になるのもわかるぜ」
「え?」
「ちいせぇけど、胸はって生きてる感じがカッケェよな」
『あんたらみたいなのに渡す金はないです』
「…………場地さんよりカッケェ人なんかいないっすよ」
「おう、わかってんじゃねえか千冬」
やっぱりオレ、あいつが気になってたんだな。