第19章 夏の嘘
その声色に、閉じかけていた目が一気開く。
ほぼゼロ距離に近かった顔を離しの顔を見れば、ハラハラと大粒の涙を流していた。
沸騰しそうになっていた脳みそが一気に冷めて冷静になる。冷静になった後に湧いてきたのは、自分への怒りだ。
何してんだよ、オレ。
「……ッ、、わりぃ…!」
「ひっ、く……も、やだ……」
「ッ」
頭をフル回転させる。
こいつを安心させるには、なんて言葉をかけるのがベストか。
一息つき、決心して、の涙を掬った。
「……あー、マジでごめん。まさか真に受けると思わなくて」
「……へ?」
情けねえ。こんな逃げ道作って、本当に。
だけど、
「泣くなって!ホントに悪かった。今度購買でなんか奢ってやるから!」
「千冬……」
今の関係を壊して、拒まれたら。
もうこいつのそばにいれなくなる。
「…か、からかったのか!?最低だなお前!!」
「ぷ、あはは!だってお前が探り入れてくるから、つい。あ、でもお前より好きな人いないってのはマジだから。つまり、別に好きな女で悩んでるとかはねえよ。この前教室で言ったのはアイツらが鬱陶しくて適当に言っただけだから。で、今日は普通に調子が悪かった」
一息で言って、疲れた。
何言い訳に必死になってんだろ。最悪だ、ホントに。
「………そ、か。なんだ…冗談かよ………」
当たり前だろ?そう返事をしようとして、息が詰まった。
なんだよ。
なんだよ、その顔。
「……はは、ごめんな、やりすぎたわ。心配してくれてありがとな」
「……おう」
なんでそんな、残念そうな顔すんだよ。
嫌がったくせに、拒んだくせに。
もう分からない。自分がどうしたいのかも、こいつとどうなりたいのかも。お前がオレのことどう思ってんのかも、
全然わかんねえよ。
授業に戻ると言って、保健室を後にした。
胸が破裂しそうなほどバクバクと振動する。
「…………っ」
なんで泣いたんだろ、俺。
ああいう質の悪いジョークは今までも飛ばされた事があったし、今回だって、そう、あれは冗談だと言っていたじゃないか。
だからいつもみたいに、テメーふざけんな!って蹴り飛ばせばよかった。
なのに、なんでこんなに胸が苦しいんだよ。バカ野郎。