第19章 夏の嘘
プールサイドへつくと、の周りには既に野郎どもが群がっていた。ケダモノが。
「〜お前細すぎねえ?てか肌白っ」
「ゴーグルつけんのはやすぎだろ!気合十分かよ!」
「うるせーな」
「一人で来たのか?千冬がいないとなんかオレまで心配になるわ。一人で大丈夫?」
「それな、ってなんか一人にさせるの心細いよな」
「おい、オレだって男だぞ」
「え、なにそれかわいい…」
「マジで最近かわいいなーって思うわ」
「それ同感。の好きなタイプは?」
「おしとやかでロングヘアの女の子」
「やっぱそういうとこは男なんだな」
「当たり前だろ!」
耳に入ってきた会話に胸が抉られるが、とりあえずの周りに上裸の男共がいるのは不愉快なので蹴散らそうと近寄る。
「じゃあ好きな男のタイプは?」
「好きな男のタイプ…?まあ…そうだな、千冬かな」
千冬かな
千冬って誰だ?羨ましいやつだ。
あ、オレか。
「千冬がプールに落ちたぞー!!」
「千冬!!!??」
「千冬ーーー!!」
衝撃すぎる発言に足を滑らせ、プールに身体が沈んでいく。そんな状況でも頭の中はの事でいっぱいだった。もはや病気だ。
ああ…そうか、あいつの好きな男のタイプはオレか。
ならもう、いいや。幸せすぎるから、この気持ちのまま天に召されてえ。
場地さん。場地さんもやっぱ恋とかしてたんスか?あの時のオレらはバカばっかで、そういう話はしなかったッスもんね。
バシャッ
誰かに肩を抱えられて、グッと引きあげられる。顔が水面から出て、自然と鼻から空気が肺に入り込んだ。
「バカ!!何してんだ千冬!!!」
ゴーグルを額にあげ、心配そうにそいつはオレを見た。
ホワイトアッシュの、濡れた髪の隙間から、オレが虜になったあの瞳が見える。ああ、が助けてくれたのか。
色素の薄い前髪から、同色のまつ毛から、滴る水滴がポタポタと頬に落ちて弾ける。
現実かどうかもわからなくなるほどに、この光景は綺麗すぎる。
「先生、こいつ体調が悪そうなので俺保健室連れていきます」
「あ、ああ。よろしく頼む」