第19章 夏の嘘
夏が来た。
あと数分で、は更衣室と書かれたこの扉から出てくる。
その姿を見たらオレは正気でいられるだろうか。いや、いられなかったから何も見ずに室内から出て外で待つことにしたんだ。
落ち着かない心をどうしようか悩んでいると、ガラッと扉が空いた。
「あ、いた千冬。待たせた」
「………………」
「千冬…?おい、お前鼻血!!顔も真っ赤じゃねえか!!」
こうなるのは分かっていたが、回避しようがない。
夏本番、体育の授業。
そう、今日から水泳が始まった。
隣で着替えられようものならオレの心臓が持たないので、風の速さで着替えて外で待っていた。
扉をあけて出てきた水着姿のはそれはそれはかわいかった。
眼鏡はかけておらず、可愛いすぎる顔が惜しみなく晒されている。肩と腰は驚くほどに細くて白い。極めつけは、その白い肌に咲く、二つの……………
「フンっ!!!!」
「千冬!!??」
持てる力の全てで自分の頬を殴った。全ては自分の邪念を振り払うため。
しかし、さすがオレ。めちゃくちゃ痛てぇ。
手を当てて痛みに耐えていると、更衣室から数人クラスメイトが出てきた。
「、ゴーグルつけろ!」
「は?なんで、まだ早い「いいからつけろ!!」
野郎どもが出てくる前に急いでゴーグルを装着させる。このかわいい顔を見せるわけにはいかない。
無理やり力任せにつけたので、痛てぇ!と足を踏まれた。
「よー、ほんっと細いなお前…って千冬お前顔どうしたんだよ!」
「魔が差した」
「…?そ、そっか…」
「マジで腰細ぇー。女子更衣室はあっちだぜーちゃん?」
「…千冬、こいつ殺せ」
「オーケー任せろ」
「おまっ、それは禁止カードだろ!!」
じゃ、あとよろしく。と吐き捨ててはとっととプールへ向かっていった。
「あいつ、千冬の飼い主が板についてきたな」
「かわいいだろ?ああ見えて恥ずかしがり屋さんなんだぜ、オレのご主人サマ」
「おー、なんか金持ちの坊ちゃんとその番犬って感じ」
「わかるわー」
「それ、あながち間違ってないぜ」
なんせあいつは本物のお坊ちゃまだからな。