第18章 知ってたまるか
「ポーランドってどこにあんの?」
「さあ、多分上の方」
ショパン国際ピアノコンクールの本戦はポーランドのワルシャワで行われる。なぜポーランドなのか。その理由は単純で、ショパンの出身地だからだ。
「さすがにポーランドまでついてくるなよ、NHKで生放送あるからそれみとけ」
「大丈夫か?また緊張して会場戻れなくなるかもしれねーぞ?」
「うるせー、平気だ馬鹿。掘り返すなや」
今は昼休み。
飯を食って、俺は千冬と適当に喋りながらピアノの鍵盤を動かす。
最近はいつもこうしている。すぐに飽きる指の練習も話しながらだと案外捗ったりするのだ。
「なあ、千冬」
「ん?」
「俺たちずっと友達だよな」
「…どうしたんだよ、急に」
「いや、聞いただけだ。深い意味はねえよ」
指練習をやめ、ゆっくりと、旋律を奏でる。
「その曲知ってるぜ、前も弾いてたよな。名前は忘れたけど。なんて曲だったっけ?」
「ひみつ」
「は?何でだよ。わかった、『秘めた恋心・フォーリンラブ』とかだろ」
「お前やっぱバカだわ」
練習曲作品10第3番ホ長調。
日本では別の曲名で知られているが、それは教えない。教えるのは、今じゃないから。