第17章 その気持ちの名前は知らない
「なんでアイツのこと殴るんだよ、すげー痛そうだったぞ」
「オレの目の前でお前の体触ったんだから殴られて当然だろ」
「別に俺の体くらい、いいだr」
「駄目に決まってんだろ!!!!」
「うわ!びっくりした、急にデケェ声出すな馬鹿!!」
体育の授業中。夏が終わっても俺たち学生は半袖半ズボンで運動場に繰り出される。
とはいってもまだ寒さを感じて身をふるわせるほどの季節でもなく、体を動かしてしまえばこっちのものだ。
本日は50m走の記録を測るらしく俺たちは順番待ち。整列してる俺、俺にべったりくっついている千冬。やめろ、俺までふざけてると思われるだろ、怒られたらどうする。
…まあこの学校で面と向かって千冬を叱れる教師はあまりいないのだが。
「…もしかしてお前、俺と走るつもり?絶対嫌だ、向こうにいけ」
「なんでだよ、一緒に走ろうぜ」
「嫌だね、俺は高木と走る。高木!一緒に走ろうぜ」
「え!あ、うん!」
「おい!!」
「何が悲しくて一番遅い俺がお前と走らなきゃいけねーんだよ、またな」
そう言って手をヒラヒラふりながら千冬から離れる。
クラスで一位二位を争う俊足の千冬と、一番遅い俺。なぜ一緒に走らなきゃいけないんだ。ああいうやつは俺みたいなやつの惨めな気持ちなんてわからないのだ。
そういうわけで千冬を無視して俺は高木と走りタイムを測った。結果からいうと去年の記録とまったく変わりはなく、今年も凄まじい鈍足っぷりだった。そして意外なことに高木はそこそこ足が速かった。なんではやく教えてくれなかったんだ、だから体育は嫌だ。
「次、千冬と町田だ」
走り終わり、適当に座っているとどこからともなく情報が耳に飛び込んできたので、スタートラインをみる。
本当に町田と並んでいた。
町田とは、うちのクラスにいる陸上部の主将だ。
クラスで一位二位を争うというのはまさにこの事で、うちのクラスで一番足が速いのはあの二人のどちらかだ。