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【東リべBLD】君の鼓動を旋律に【松野千冬】

第17章 その気持ちの名前は知らない






この間のコンクール、俺が思っていたよりも多くのメディアで取り上げられた。
なんでも日本人の最優秀賞は5年ぶりだとか。
そんなわけで、コンクール後インタビューに答えている俺の姿は全国放送で何度も晒されてしまった。クソだ。
「クールだけどはにかんだ顔はまだまだ年相応ですね」とコメントしたあのアナウンサーは大嫌いになった。


コンクール明けの登校日。
校舎の壁には【ショパン国際ピアノコンクール アジア部門 最優秀賞 】と縦旗が垂らされているし、校舎の入口には新聞の切抜きが貼られているし、目立つことが嫌いな俺的にはかなり最悪だ。

はぁ、と重い溜息をついて教室に入る。
扉を開け足を踏み入れた瞬間、大音量でクラッカーが弾けた。唖然としてると、一斉におめでとう!と声をかけられた。
耳は痛いし身体中紙吹雪まみれでエラい目にあった。そして自分の事のように大喜びではしゃぐクラスメイト達。
うるさいし、鬱陶しくて嫌なはずなのに、心がじんわりと暖かくなる感じがする。
自分が内心喜びを感じているのを自覚した。
はいはいとあしらいながら自分の席へ向かう間、ついつり上がった口角を見られないように咳払いをしながら口元を手で隠した。






「やっぱさーコンクールって緊張すんの?どうだった?」
「緊張?俺がか?ハッ、するわけねーだろ」
「震えて一人で会場戻れないから来てくれって呼び出されたけどな、オレ」
「余計なこと言うな千冬!!」

次は体育の授業が控えているため、教室で体操着に着替えながらクラスメイトと談笑。
はっきり言うとまだ現実味がない。
それはコンクールの事ではなく、自分がこうして、人の輪に入れている事に、だ。

「…?さっきからすげぇ視線感じるんだけど、どうした?」
「……いや、なんでもねえ」

全部お前のおかげだよ、ありがとう千冬。
なんて口に出して言うのはまだはずかしいけど。
千冬がこうして、人と関わる機会を設けてくれているからこそ俺に今の居場所があるわけで。

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