第15章 アジアコンクール
コンクール当日。
昼食後、「それじゃあ俺は、この後ヘアメイクと着替えしてそのまま楽屋行くから」と会場へ向かった。演奏順がラストなので、時間になるまでのお母さんとその辺を散策した。浜松名物うなぎパイ、うなぎの味はしなかった。
オレたちが会場に到着し、背に「関係者席」と張り紙がされたシートに座ったのはの演奏の二つ前からだった。
市民ホールにしか行ったことないオレは、まず会場の規模に驚かされた。
普段はプロがコンサートをするような有名なホールらしく、場内は満席。会場外のモニター席で閲覧している人も沢山いた。
会場の色んなところからピリピリとした緊張感が伝わってくる。すごい、こんな沢山の人に囲まれながら、光が当たる一点であいつは演奏するのか。何故かオレが高揚感でずっと昂っている。
の一つ前の演奏が終わった途端、客席が少しざわつき会話が聞こえてきた。
「次、いよいよくんだよ」
「ミスってくれないかなぁ…」
きっとオレの隣にいるのお母さんにも聞こえただろうとチラッと視線を配ると、気づいてオレに微笑んだ。ああ、アイツにそっくりだ。
「大丈夫。しっかり見てあげてね、松野くん。」
はい、という言葉に被さるようにアナウンスが響く。
「次で最後の演奏になります。
日本より、さん。
曲はフランツ・リスト作曲、マゼッパ」
「マゼッパ……」
オレは、その曲を知ってる。
『フランツ・リストのマゼッパ。ずっと練習してた、大切な曲。
これを誰かに聴かせたのは、お前が初めてだ』
あの時の曲は、この為に、そうだったのか―――
「………ッ」
じわりと、涙が滲んだ。