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【東リべBLD】君の鼓動を旋律に【松野千冬】

第15章 アジアコンクール




気がついたら演奏は終わっていた。
初めてあいつの演奏を聴いた時この曲はもう完成されているものだと思っていたが、その時を上回るほどの衝撃が身体中を走った。
聴いている者の血液の流れを加速させるような、内から侵食されていく感覚は、前の二人の演奏とはまったく別次元のもののように感じた。
が舞台から姿を消し、演奏終了のアナウンスとともに会場内の照明がつく。
これから審査には時間がかかるため、しばらく入退室は自由との事だ。
は戻ってくるのだろうかと考えながら携帯の電源をつけると、メールが着ていた。5分前。からだ。




『From:
(件名なし)
-----------------------------
ホテルの部屋来て』





ホテルの部屋?今、会場にいる訳ではないのか。
一回ホテル戻ります、とのお母さんに伝え、走って部屋に向かった。






「千冬ッ…」


ドアを開き入室するや否や、が飛び込んできた。
なんだテンションが高いなと言おうとして、飲み込む。小さな肩が、小刻みに震えていた。

「どうした?大丈夫か?」
「ごめん、少しだけでいいから、このままがいい…」
「わかった、とりあえずソファ座ろうぜ」

肩に手を回し、支えながらソファに座らせるや否や、ギュッと抱きついてくる震えた体を優しく抱き返した。

「お、俺、ちゃんと弾けてた?大丈夫だった?もう頭真っ白で何もわかんなかった、ミスったかどうかもわからない」

発せられたのは意外すぎる内容だった。
傍から見たら驚く程に落ち着いていて、超人的とすら思っていた。
そうだ、こいつはそういうやつだ。初めて会った時、不良の先輩に盾突いてた時も強気にみえて手が震えていたのを思い出す。
まだオレと同じ中学生だ、あんな場所で平常心でいられるはずない。
舞台にいた時と同じ姿なのに、今はいつものだなと思った。


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