第15章 アジアコンクール
―――ショパン国際ピアノコンクール 18歳以下の部
アジア予選前日
「それじゃあ、私は隣の部屋だから。二人ともおやすみなさい。明日頑張ってね、」
「うん、ありがとう。おやすみなさい」
「また明日」
昼頃にとの母親と三人で東京を出発し、浜松を軽く観光した後ホテル内でディナーを終えたオレ達は部屋に戻った。
部屋に戻るまでの間、すれ違う度に「あのくんだよね?」と声をかけられては談笑に応じていたをみて、ああ、こいつは本来はこっちの世界の人間なのだと実感した。
「てかなんでお前と二人一部屋なんだ」
「修学旅行みたいでいーじゃん」
「はぁ」
時刻は夜の7時。
ふぅ、とため息をついたは、テーブルに座りプログラムを開いた。
オレも隣に座り一緒になって小綺麗な用紙に目を通す。
「お前何番目なの?」
「んーっと………おお、マジか。一番最後だ」
「マジ?」
「ああ。…日本からは…こいつらか。どいつもこいつも見知った名前ばっかだな」
「日本人って何人いんの?」
「予選を突破した20人だな。最終的には、アジア含めた全ての国の出場者で計50人まで絞られる」
視線を紙からの顔へと移す。
相変わらず今日も分厚い眼鏡をかけている。
眼鏡の隙間から除く瞳は緊張してるかと思いきや、期待と自信そして闘志に燃えていた。
目が離せなくなるほどに、かっこいいと思った。
適当に過ごした後、それぞれシャワーを浴びベッドに潜り込む。
「なんで2つあるのにわざわざこっちに入るんだよ」
「いーだろ?」
「まあ、千冬ならいいけど…」
「なんでオレならいいの?」
「千冬だから」
「なんだそれ」
「………本音言うと、俺もちょっとお前と寝たかったし…」
「…………」
およそ普通の人間関係を築いてきたなら、男同士でこの近すぎる距離感が友達同士としては異常な事が理解出来るはずだ。でもこいつは知らない。それをオレは利用している。その事に、罪悪感を覚える時がある。それはが今みたいにオレを友達として求めた時だ。
もしオレの好きという気持ちが、がオレに向ける好きとは違うと知ったら、お前はどうするのだろうか。
…いやこれ以上考えるのはやめておこう。明日は大事な日なのだから。