第14章 優しき一日を
後日。
担任と教頭、校長。それから双方の両親と当事者を交えた話し合いの末、高木は二日間の自宅謹慎で済んだ。
事は内部で収束。他言無用。高木の欠席は表面上体調不良という事になっている。
今回の出来事は、俺からの希望で「なかった事」になった。
「くん、うちの子が本当にごめんなさい。本当に…あなたと違って、何をやらせてもダメな子の。ピアノも、あなたみたいにはいかないし、挙げ句の果てにこんな事まで…」
「…俺だって、ダメダメですよ。勉強も運動も、苦手です。
それに…今回のことは、高木だけのせいじゃない」
「え?」
届くだろうか。この人の心に。
「氷のように凍った心を溶かせるのは、太陽のような親の愛だけだって、俺は思います。
偉そうですみません。失礼します」
あいつの母親に、伝えたいことは伝えられたはずだ。
校長室を出て、お母さんと並んで廊下を歩く。いつもは千冬と歩いている場所だ。なんだか不思議な気分だ。
「……ママ、ごめん」
「ふふ、。愛してるわよ」
「な!なんだよ、急に…」
「あなたの言葉、きっと心に響いたと思うわ。それにしても……随分大人になったわね」
「…そう、かな」
「ええ。」
「おーい!お前のダーリンが教室で待ってるぞー!」
「おまっ、ダーリンって言い方やめろ!じゃあママ、俺千冬のとこ行くね」
「……ええ、いってらっしゃい」
教室に戻る前に見たお母さんは、目を涙で潤ませて泣きそうな顔をしていた。
それは悲しみからではないことはすぐにわかる。
お母さん、俺はもう大丈夫だよ。
その言葉は、言わなくてもきっと伝わるだろう。俺たちは、世界でたった一人の母と子だから。