第13章 仲直り
オレの好きな人は、優しすぎる。
「お前、なんてこと言い出すんだよ。心臓止まるかと思った」
「何が?」
「ピアノ辞めるってやつだよ」
「ああ…人を不幸にさせるピアノなんて、弾いてても楽しくねーからな」
「……はぁ。お前らしいわ。やっぱタケミっちに似てるよお前」
「だから誰だよタケミっちって」
生徒指導室を後にし、二人で廊下を歩く。
下駄箱で上履きから靴に履き替え外に出ると、外はすっかり紅くなっていた。柔らかく吹き付ける風が気持ち良い。
「…てか、ショパン国際なんたらって何のことだよ、聞いてねーぞ」
「お前と喧嘩してた時に決まったんだよ。とりあえずアジアコンクール突破しないとな」
「………なんかもう、お前すごすぎてわけわかんねーわ」
「別に無理してリアクションする必要ねえよ。俺は自分がやれる事をするだけだし」
「はぁ、たまにすげえカッケー事言うよな。で、アジア大会はどこでやんの?」
「今年は日本。静岡の浜松だな」
「マジ?オレも見にいけんの?」
「来たいなら関係者席お前の分取っとくけど、静岡の浜松って結構遠いぜ?マジで来んの?」
「行くに決まってるだろ?」
「はは!決まってんのか、そうか。なら、俺ら一泊二日でいくから一緒に泊まろうぜ」
「いいのか!?うわ、やべー楽しみだ。お前の晴れ姿が見れるとかテンション上がる」
「はは、大袈裟だ。…でも嬉しい」
分厚いレンズの下で、今どんな表情を覗かせているのだろう。
「千冬、ありがとう。ずっとそばにいてくれて」
「もう離れないって約束したからな」
「……恥ずかしいやつ」
、お前が好きだ。はやく言葉にして伝えたい。
オレはいつまで、この気持ちを隠していればいい?