第12章 俺のヒーロー
新しい友達ができた。
自分から友達になろうと言ったのは初めてだ。そう言えたのは、千冬が俺を変えてくれたから。
千冬。
謝りたいけど、俺と二人でいるよりは今みたいに派手なやつらに囲まれてる方が賑やかで楽しそうだし、なによりお前らしいと思う。
むしろなんで俺なんかがあいつの傍にいれたんだ。
高木には僕なんかとか言うなと偉そうに言っておきながら、このザマだ。
考えて、勝手に虚しくなる。ああ、寂しいな。
「…ショパン…ノクターン20番、遺作か。いいな」
「え、あ…うん、好きなんだ、この曲」
誰もいない、静かな森にいるようなどこか不安になる旋律。それがいい、この静かなる不穏さこそこの曲の象徴だ。
「……高木。俺がアドバイスする事なんてないよ。お前すげぇ上手いじゃん。相当ピアノ練習してるだろ?」
「え…?!あ、うん…!」
「…?どうした?」
「いや………嬉しいんだ。
僕、今までそんなふうに言われたこと、ないから。怒られてばかりで…」
「誰が怒るんだよ、お前の演奏かなりレベル高いのに」
「はは、優しいねくんは。ありがとう、嬉しい」
高木からは、どこか不思議な感じがする。
自分に自信がないようで、演奏中はどこか誇らしげに弾く。
ピアノの事を語る彼の目はたまに傷ついたような色を覗かせる。
それから数日。
俺は高木といるようになった。
移動教室、体育のストレッチ、昼休み。いつも千冬がいた場所に、今は高木がいる。
ピアノ教室で知り合う人間はいるが、学校でピアノを弾くやつと出会える事はそうない。
だから俺は嬉しかった。一緒にいるのも楽しかった。
なにより、高木は一緒にいて落ち着く。
こういう言い方は高木に失礼かもしれないが、千冬といるとたまに自分は相応しくないように思う時がある。
高木からは、自分と似たような雰囲気を感じるから安心できるのだ。
だけど、
自然と千冬を目で追ってしまうのは何故だろう。
『お前のこと、嫌って離れたりしねえ。約束する。だから、友達になろうぜ』
「…………嘘つき」
「え?何か言った?」
「ああ、ごめん。なんでもない。教室戻ろうぜ」