第11章 だって好きだから
「なあ、あの女子誰?」
「谷川さんのこと?小学生の頃同じピアノ教室通ってたんだ。いい子だよ、昔からずっと」
「………お前あの子の事好きなのかよ」
「はあ?突拍子もねえ事言うな。ヤキモチか?」
「そうだけど。悪いかよ」
「え、冗談だろ。てか何で怒ってんだよ」
「別に」
自分で自分がダサいのは百も承知だ。
「千冬は彼女いねえの?」
「いねーよ」
「ふうん。意外だな。作ればいいのに。お前なら選び放題だろ」
「作らねえよ、興味ねえし」
「そ、そうか……なにさっきからイライラしてんだよ、もう」
「お前がくだらねーこと聞いてくるからだろ!」
感情的になり、思ったよりもデカい声が出てしまった。
「な、なんだよ!何で怒ってんのか全然わかんねーよ!あーうぜえ、俺先に教室戻るから!」
バタンと乱暴に閉められた扉の音で、我に返る。
あいつからしたらなんでもない友達同士の会話に過ぎないのに、つい苛立ってしまった。何してんだオレの馬鹿。
後でちゃんと謝ろう。
食べかけの弁当をかきこんで、俺も音楽室を後にした。
5限の体育の授業。
ここ最近はいつも二人一組のストレッチをとしていた。
「、さっきは悪かった、ごめんな。オレとストレッチしようぜ」
「………」
「おい、無視かよ」
「うぜえな、向こういけ。バカがうつる」
「は?お前のがテストの順位低かっただろ、バーカ」
そう、素行こそ模範的生徒なだがその実あまり勉強ができない。そこも含めてかわいいが、今は置いておく。
「あ?お前謝りに来たんじゃねーのかよ、なんだその態度」
「お前こそなんだよその態度。人が謝ってんのにおかしいんじゃねーの?」
「あーうるせえうるせえ。向こういけ、邪魔だ」
「オレが向こう行ったらお前一人になるだろ」
「一人のがマシだから向こう行けっつってんだよマヌケ」
「……んだと?」
「そこの二人!!真面目にやれ!!!」
体育教師の怒号で、二人してハッと我に返る。
すぐには「すみません!」と丁寧に謝罪し、オレから離れて一人ストレッチを開始した。