第10章 はじめてのお泊まり編③
「疲れただろ、お前は客室で寝ろよ」
「はあ?泊まりにきてんのになんで別々に寝るんだよ。お前と寝る」
「あ、そう。は?」
さも当然のように言い放つ松野。
まあ、お泊まりイベントは俺なんかよりも経験豊富だろうし、松野がそういうのなら、それが普通なのだろう。
しかし、俺がイメージする友達同士の距離感に比べてこいつは異常に距離が近い気がするのは気のせいだろうか。
「じゃ、布団もってきて床に敷いてやるよ」
「だからなんでそうなるんだよ。一緒に寝ようぜ」
「バカか、何が悲しくて野郎と寝なきゃいけねーんだよ」
「そんなに嫌か?」
松野の声色に、言葉が詰まる。
なんでそんな、寂しそうな声出すんだよ。
そんな風に言われたら流石の俺も断れないだろ。
「………はぁ、わかったよ」
消灯、と言っても俺は昔から豆電球をつけて寝るのが習慣になっている。
それを松野からつっこまれるだろうと思っていたが、案の定。
「なんで豆電球つけてんだよ、まさか真っ暗なの怖えの?」
「ああ、そうだよ、悪いかよクソ。狭いから床で寝ろ」
「嫌でーす。今日はオレもいるから、真っ暗にしてみようぜ」
「……まあ、いいけど」
ベッドのサイドテーブルに置いていたリモコンを手に取り、完全に消灯する。
「……真っ暗。なんも見えねえ」
まだ暗闇に目が慣れない。
「」
名前を呼ばれたので、背を向けていた体勢から、松野の方を振り返る。
近い。真っ暗でまだ見えないが、吐息でわかる。
「近すぎだろ」
「いいじゃん、ガキみたいでなんかワクワクしねぇ?」
なるほど。松野的にはそういう感覚なのか。妙に納得した。
通りで距離が近かったのか、色んな疑問が解決したように感じて少しスッキリした。
むしろ変に意識してた俺がバカみたいだ。