第9章 はじめてのお泊まり編②
夜はゆっくり過ごしたいでしょ?とのお母さんが気を利かせて早めに夕食を準備してくれた。時刻は夜の7時前だった。
誰かの誕生日パーティかという程に豪華な食事は、見た目だけでなく味も絶品だった。
の母親が「、先にお風呂に入っていらっしゃい」と言うと学校では絶対にお目にかかれない程素直に言うことを聞くのでそのギャップが可愛いなと思った。
オレは広いリビングで、のお母さんと談笑をしている。
「へえ、そんなふうにオレのこと言ってたんだ、すげぇ嬉しい」
「ふふふ、最近本当に楽しそうに学校に行くものだから、私もすごく嬉しくて……ありがとうね、松野くん」
「いえ!こっちこそ、仲良くしてもらってるんで」
そう言うと、ふふ、と微笑んでワインを一口含んだ。
「……私ね、ずっと自分を責めていたの。絶対音感が身についたらいいと思って、かなり早い時期から音楽教育をやらせたのは私だから」
酔っているのだろう、すこし据わった目で語り出した。
「忘れもしないわ。
小学生の頃、雨の中びしょ濡れで泣きながら帰ってきたの。
『みんなと一緒に遊びたいのに、なんで俺だけ』って…。
私は何も言えなかった。ただ抱きしめて一緒に泣く事しかできなかった。
あの子には、いつか本当の友達と出会えるって何度も言っていたけれど…あれは半分自分に言い聞かせていたのかもしれないわね。
もしこのまま人と壁を作ったまま友達ができなかったらって……ずっと不安だった。
ねえ、松野くん」
「はい」
「あの子、とっても可愛いでしょ?」
真っ直ぐ射抜くような視線を向けられる。
ああ、この大人は気づいている。
オレがあいつに向けている、恋心に。
「………はい」
「ごめんなさい!咎めているわけじゃないのよ。
松野くん、すっごく優しい目であの子の事見るから、わかっちゃった。
女の勘ってやつね」
「……あの!」
「わかってる、あの子には言わない」
自分の口元に人差し指をあてて、優しく微笑んだ。