第9章 はじめてのお泊まり編②
地下は広い防音のスタジオになっていた。
スタジオというからには、ピアノだけでなくドラム等の楽器や機材等もしっかり設備されている。
「さて、何が聴きたい」
「お前が弾いてくれるなら、なんでも」
「どうせなんも曲知らねえんだろ」
「知ってるぜ、エリーゼのために」
「それだけか?」
ふふ、と柔らかく微笑んでから演奏を始める。
軽快なリズムで鍵盤の上を弾くようにタッチする手つきに目が離せない。ピアノなんか興味無かったのに、不思議だ。耳に入ってくる音がどれも心地よい。
は、演奏しながらその曲の背景だったり作曲家のトリビアなんかも交えて話してくれたため、時間を忘れるほどに楽しかった。
「それじゃあ、これで最後にするか」
ゆっくりとした手つきで、なぞるように鍵盤に触れる。優しい、どこか懐かしいメロディが耳をくすぐった。
「松野、俺はこの曲より美しいものを知らない。ショパンの別れの曲だ。聴いたことあるだろ」
「ああ……綺麗だ、本当に」
そう答えると、は少し寂しい顔をした。その理由が、オレにはわからなかった。