第8章 はじめてのお泊まり編①
「お前の部屋、ピアノねえんだな」
「ピアノはこの部屋じゃない。地下が防音のスタジオになってるからそこにある」
「…………あのさ、お前の親って何してる人なの?」
「母親はバイオリニスト、父親はマエストロ……指揮者だ。父親は今ヨーロッパで公演してるからしばらくはいない」
「エリート一家ってやつか」
「そんな事ねえよ。両親は音大卒業してしばらくはなかなか仕事がなかったみたいでな。
昔は苦しい生活してたって聞いた」
「へえ、意外だな」
ぐるっと部屋を見回すと、賞状やらトロフィーで溢れかえってる。どれも優勝、最優秀賞の文字ばかり刻まれている。
「お前、やっぱすげーんだな」
「お前のがすげえだろ。俺は……これしか、出来ることがないから」
「あのなあ、自己肯定感低すぎ。だから根暗って言われるんだぜ?もっと堂々としてればいいんだよ」
「堂々と」
「そう。今はオレが隣にいるんだから尚更堂々としていいぜ」
「…はは、お前は安定して馬鹿で助かる」
なんだと、と噛みつこうと思ったが言葉とは裏腹に優しい顔で微笑むから、思わず息を飲んだ。
「なあ、今日はずっと眼鏡外しとけよ」
「お前いつもそれだな、まあいいけど。コンタクトつけてくるから待ってろ」
洗面所いってつけてくるから、と一度部屋を出ていったので、の自室にオレ一人になった。
「……ひっろ」
昔から知っていた豪邸の内側から窓を見る。
いつもは外からみていたこの家が、まさかの自宅だとは思わなかった。
改めて部屋を見回す。
広い部屋に、高そうな家具。クソでかい液晶のテレビに家庭用ゲーム機とPCまで揃っている。
ベッドの上では布団が几帳面に畳まれている。あいつらしいな。いつもあそこで寝てるのか。
色々と想像が膨らんできたところで部屋の扉が開いた。